クローン牛

 7月6日体細胞による国内初のクローン牛誕生のニュースは衝撃的であった。
昨年2月イギリスのクローン羊「ドリー」の誕生以来、体細胞によるクローン技術の開発が脚光を浴びるようになり、国内でも今回の牛以外にも三十頭の体細胞クローン牛の誕生が待たれていると言う。遺伝的に同一な牛を効率的に生産できるクローン技術は、畜産業界にとっては革命的であり、実用化が待ち望まれていると言うが、その背景には日本独特の食文化も作用している。

 クローン牛を特集していた、ある民放のニュース番組では「霜降りクローン牛」というタイトルが目を引いた。霜降りとは、日本人好みの口当たりの柔らかい脂ののった肉、しゃぶしゃぶなどには格別の味を提供する肉を言う。元来、動物の体の肉付きは、骨格の周りを筋肉が包み、その周りを脂肪が取り巻くというのが常識だ。自分のお腹あたりをさぐってみると実によく分かる、確かに脂肪らしきものがいっぱいまつわりついている。

 ところが霜降り肉はというと、なぜか筋肉の中に脂肪が霜降り状に点在しているのだ。これは先天的にそうした遺伝子をもった牛に特有のものらしいのだが、それが牛の体にとって良いものなのか、どうかは分からない。単に人間の味覚によって優劣を判断しているに過ぎない。

 生産者は霜ふりを実現させるために大変な努力をするのだという話を聞いたことがあるが、クローン技術を使えば、殆ど同じ様な肉が効率的に生産できるという。このきわめて特殊な霜降り肉をありがたがって食べるのが日本人であり、黒毛和牛という独特の高価な市場を形成しているのである。今回の霜降り牛クローンはこうした市場をねらっての技術競争の産物でもある。規格品を欲しがる人にはもってこいの技術なのだ。

 さて、子供は父親と、母親がいて生まれるのが自然の習わしであるが、体細胞クローンの場合、成体の体細胞の核を卵細胞に移植するので精子はいらない。男性なしで子供が増殖できるのだ。考えたくもないが、ヒトへの応用を思うと背筋が寒くなる。

 当分先の話になるとは思うが、もし霜降りクローン牛が量産され、店頭に並ぶ体制になったとしたら、必ずクローン牛である旨の表示を義務づけてもらいたい。
食べる勇気があるかどうか、その時に考えよう。


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