ナイフ

 このところナイフを持つ少年による事件がマスコミをにぎわしている。連鎖反応的におきるこの種の事件では、凶器として使われたナイフに焦点があてられ、「なぜ持ちたがるのか?」という疑問を前面に押しだした報道番組も少なくない。だが、ナイフを持ちたがる気持ちは今も昔も変わらない。昔は「肥後之守」といった、少年御用達のナイフが存在していた。人を脅すためとか、護身用ではない。鉛筆削り用という大義名分もあったが、ポケットに持ち歩き、山歩きには笹や小枝を切ってはその感触を楽しむ、いわば日常の遊び道具であった。

 机の角は切れ味を試す絶好の標的。学校の机ももちろんだが、自宅の机はナイフの切り込みでガタガタになっていた。消しゴムを切り刻んだり、鉛筆の端に彫刻を施すのも密かな喜びであった。大工さんの砥石で自分のナイフを研ごうとしてしかられたこともあった。しかたなくコンクリートのかけらで研いで、かえって切れなくなったナイフを、ピカピカに研げたと言って自慢した。

 ナイフを持ってはいけないと言われるようになったのは、小学校も高学年になった頃。朝礼では、ナイフで怪我をした例が語られたが、ナイフが凶器になった話はあまりなかったように思う。鉛筆を削る道具として信頼を得ていたナイフは、片刃の安全剃刀に取って代わられ、ついには電動鉛筆削り器になってしまった。鉛筆を削れない子供たちが話題になったのは遠い昔の話。今ではナイフで鉛筆を削るという事もなければ、削れないことが話題になる事もない。従って、少年たちがナイフを持つ大義名分もなくなった。

 私は刃物が好きだ。ショーウィンドウに飾られたナイフは、手に取ってみたいという欲求をそそる。現代の少年たちが語る、自分が強くなったり、認められたいと言う言葉とは必ずしも結びつかないが、何かしら引きつけるものがある。だから少年たちがナイフを持ちたがる気持ちはよくわかる。こうした場合の、ナイフの販売規制は何の役にも立たないだろう。かえって購買意欲をそそることにもなりかねないからだ。

 かつて、鉛筆を削れないことを嘆いたように、ナイフの危険性や扱い方を知らない子に育ててしまった事を嘆くべき時が来ている。ナイフの正しい使い方や危険性を教える程の余裕さえない、今の学校や家庭に問題はないのだろうか。


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