吉野川の未来に

 県外から訪れる友人は、飛行場から徳島市内へ向かう途中で、口を揃えて吉野川の雄大さに感動し賛辞を送ってくれる、徳島県人として、大変誇らしく思える時だ。「この橋のすぐそばの河口の干潟にはシオマネキが群生してるんですよ」、私は必ずこう言って相手の返事を待つ。たいていの人は、驚いたような表情をみせる。同時にシオマネキは日本では、有明海と、ここ吉野川に群生する他は、全国的には稀少な生物である事や、シオマネキのユーモラスなしぐさを話しながら徳島市内に案内する。

 先般、吉野川シンポジウム実行委員会編「吉野川の未来に」(山と渓谷社)の出版記念パーティーに参加したが、集まった大勢の人々と、川を愛する人達の熱いメッセージに圧倒されてしまった。これだけの人が、何の利益も省みず、貴重な時間をさいて、吉野川への思いを表現しているのだと思うと、徳島県人もまんざら捨てたものではないと感無量であった。第十堰改築問題をきっかけに、吉野川シンポジウム実行委員会が発足して以来四年、全くのボランティア活動を今日まで支えてきたのは、実にメンバーたちの自然にたいする憧憬、川に対する愛着に他ならない。純粋に川を愛し自然を愛するが故に、今日の世論の高まりを見ることが出来たのだろう。

 長良川河口の可動堰に見るまでもなく、吉野川を可動堰から守れなければ、徳島県民として、末代に汚点を残すことになるだろう。美しい自然をこれ以上破壊することはやめよう。巨大公共事業がまかりとおった高度成長時代はもう二度とやってくることはない。公共事業の見直しが叫ばれている中、巨大なプロジェクトであるこの第十堰改築事業、決して民意ではなく、ひたすら行政側のごり押しのように思えてならない。治水、利水の言葉はきれいだが、巨額の公共事業費の事を考えると、審議委員会と云えども、どうも公平な審査が出来ているとは思えない。

 一方、吉野川シンポジウム実行委員会代表の姫野氏のように、一県民の疑問に思う立場から地道な努力を重ね、ここまで世論を高めてきた努力は賞賛に値する。
 もはや国民的な問題となった第十堰改築問題、吉野川とそれを愛する人達の活動、どちらも他県に向かって誇れるような結果を期待したい。



戻る

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM