弓張り提灯

 夕方になると街角に阿波踊りの鐘の音が聞こえはじめるこの時期、鳴り物教室は満杯となり、染物屋さんは浴衣を染めるのに、提灯屋さんは提灯作りに一年中で一番忙しい時を向かえる。本格的な夏の到来と、阿波踊りの本番が近い事を肌で感じる頃だ。

 踊り子連の先頭を飾る高張り提灯。それぞれの連の名前が書かれたこの提灯は、ひしめきあう雑踏の中でも、遠くからよく目立つので、仲間がはぐれることもないし、知り合いの連を探すのもこの高張り提灯が目印になる。また、演舞場での順番待ちの役目も果たす事もある。これとは別に、男踊りの小道具として用いられるのが弓張り提灯。この弓張り提灯は点火したまま床に置く事が可能で、また激しい動きにも耐えられるため日常の移動用照明器 具として江戸時代から広く用いられていたという。昔のチャンバラ映画の捕り物場面では、必ず「御用」と書かれた弓張り提灯が登場した。左手に棒を持ち、右手の弓張り提灯を前面にかざし、「御用だっ!」と、くせ者を遠巻きにする場面でおなじみだ。

 私が子供の頃には、弓張り提灯を片手に踊る連が、今よりはずっと多かったように思うが、気のせいだろうか?

 二年ほど前、弓張り提灯を手に豪快に踊る男踊りにあこがれて、この弓張り提灯を注文して作ってもらった。阿波踊り本番前とあって、提灯屋さんの台帳には、注文を受けた連の名前がずらりと並んでいた。二週間後、念願の弓張り提灯を手にした日から、私の踊りは提灯の扱いに苦労することになった。思いの外大きいので踊りの邪魔になる。弓の下部を掴んでいる指の皮がすぐにむけてくる。軽々とさばいている有名連の踊り子を手本に、あれこれ試行錯誤の結果、一応のかっこうは付いたものの、まだまだ使いこなせるには至っていない。

 県外の宴席では徳島人だというと、大抵阿波踊りを所望される。そこでためらうことなく踊れるようにと大学生時代に始めた阿波踊りだが、ここ十年以上毎年欠かさず踊り続けている。今年の阿波踊りももう一月。やぶれた弓張り提灯を修理し、本番に備えなければならないのだが、どんどん出てくるお腹や、運動不足の足腰が、過酷な阿波踊りに耐えられるのだろうか、体力も気になるところである。

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