捕虫網

植木が多いせいか、毎年梅雨まえから蚊には悩まされている。暑苦しく寝つかれない夜、耳許にブーンとくる蚊は腹立たしいものだ。パチンと平手打ちしたところで、つかまることはまずない。耳奥に残る余韻がさらにイライラをつのらせる。

 最近は手間のかからない電気蚊取り器が販売されていて、我が家もそういった器具のお世話になっているのだが、あの不自然な芳香にはなじめないものがある。自然食品とか公害にくわしい友人に相談すると、農薬を室内に散布してるようなものだから、ここは全く公害の恐れのない網でとるのが良い、という単純にして実に明解な教えを頂いた。

 安物の竹の柄の付いた昆虫採集用の網がいい、柄は三十センチ程度に短く切って使う。夕方蚊の出没する時間に、蚊のかくれていそうな所、例えばタンスの裏側とかをうちわであおいで、出てきたところを網で捕ってしまおうという話なのだ。最近の建物はアルミサッシ、網戸などで蚊の入るすきまもないので、こうすれば蚊取り線香もいらないと言うのだ。

 不精物の私には疑問もあったが、手元に網を置いておいて蚊が近付いて来たら捉える事くらいは出来そうだ。考えてみれば、幼い頃追っ掛けた蝶やとんぼにくらべたら蚊の速度は随分遅いではないか。

 ためらいながらも私は友人の手持ちの捕虫網をわけてもらって、手元におくことにした。効果てきめん! 生まれてこのかた蚊は左右の手の平で挟み打ちにするものと信じ込んでいた私には、この効果は革命的であった。両手にたよっていた時には予想もしなかったくらい楽に蚊が捕らえられる。もっとも蚊を発見しても網を捜しているうちに蚊は退散するという事態もしばしばではあるが・・。

 蝶を追っ掛ける姿もめったに見られなくなった今、蚊を追っ掛ける我が子の姿もほほえましいものだ。捕虫網を買った夜、耳許にブーンと蚊がくるのを期待するあまり、眠れ無かった事も告白しておこう。



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