田植え

 5月21日、今年も吟醸酒作りを楽しむ人たちが、50名を越えて佐那河内村の田植えに参加した。絶好の田植え日和というのか、晴れ渡った初夏の空の下、佐那河内村の棚田には谷川から引かれた水が蓄えられ、太陽を眩しく照り返していた。前日の睡眠不足にもめげず、早起きをした私は、長靴持参ではせ参じたが、膝元までもある水には何の役にも立たず、裸足で田圃に入ることにした。田圃に張られた谷川の水は大変冷たく気持ちよい。

 農家の方から簡単な手ほどきを受けいざ出陣。田圃の両端に二人が配置され、目印のロープが張られる。ロープに沿って10数人が並び、等間隔に印された結び目に合わせて、山田錦の苗を植えて行く。ずぶずぶとめり込んでいく足に冷たい谷水を感じながら、前屈みの格好で、一筋ずつ植えては、後ずさりをする形で作業は進む。田植えは初めての経験ではあるが、カブトエビや、カエルの卵を取るために水田に入って叱られた頃の感触がよみがえってきて、つい口元から幼い頃の歌が出る「みのきて、かさきて、くわもって~、おひゃくしょうさん、ご~くろうさん~」 私には懐かしい歌だが、知っている人はあまりいないようだった。楽しく田植えを続けているがみんな素人、遊び感覚のずさんな植え方には先輩の叱りの声が容赦なく響く。やがて一区切りが終わると、次の田圃へ移動。しばしの休息に佐那河内の谷川から流れる水を腹一杯飲んだ。何とおいしかったこと!

 空腹を我慢しながら、一通り田植えが終わった段階で昼休み。特製のおいしい弁当をいただき、昨年育てた山田錦で作った吟醸酒「おでんでん」が振る舞われる。もとより酒好きの集まりである、昼とはいえ出るものさえ出れば機嫌は上々。お酒談義に花が咲き、気が付けばそろそろ夕暮れ。初夏の一日はこうして暮れていった。
 いつの頃かあまり外に出る事が少なくなり、もっぱら屋内で過ごすことが多くなった私には5月の日差しは応える。家に帰り赤く日焼けした腕や足をみて、真っ黒に日焼けした頃があったことが思い出される。

 今年もまた、秋には稲刈り、そして年が明ければ初搾りが待っている。田植えの後の筋肉痛も癒えたこの頃、稲を作り、料理を囲み、酒を酌み交わしながら自然の中で語り合う、酒飲みの一年とは、なんと季節感のある一年であろうかと、我が意を得た境地である。

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