花畑

 自由な時間がふんだんにあった頃の話だ。庭の周囲には花壇を作って、季節には庭一面の花畑を自慢していた。春先にまいた種を苗床に植え替えて、花壇に移植して、花が咲くまでの待ち遠しかったこと。宿根草、一年草、あたりかまわず植えて楽しんでいた。ほんの少しの成長がうれしく、生命の不思議を感じる事の出来る毎日が続いた。花の好きな人たちと花の話をするのも大好きだった。

 幸か不幸か、その頃からコンピュータに夢中になりだし、かなりの時間をコンピュータと過ごすようになった。のめり込めばのめり込むほど、コンピュータに費やす時間は増えてゆき、とうとう6年前小さなソフト会社を作ってしまった。花に目をかける時間は反対になくなっていった。庭に咲く花は年々少なくなり、いつしか植え換えもされない球根類が、かろうじて小さな花をつけるだけになってしまった。去年の夏に掘り起こした水仙の球根などは、秋に植えるのを忘れられたまま、物置の棚で芽をだしているのが痛々しい。通りがかりに目に付く度に心が痛むのだが、どうにも出来ない事にいらだちを覚える。

 それでも春が来ると、花に狂っていた頃の血が騒ぎだす。庭のふきのとうをカメラにおさめて、その美しさに見入っている。唯一かわいがっている長生蘭も、長い冬眠から目覚めて新芽を見せている。なんて美しいんだろう!仕事に追い立てられる毎日の中で時間を取り戻すことの出来る一瞬でもある。

 コンピュータの時間はとてつもなく速いけれど、付き合うのに途方もない時間を必要とする。花と付き合うのにそんなに時間はいらない。忙しいといいながら、つい心のゆとりを無くしかけている自分に気がついた。

 仕事に追われる中、自然、音楽、大切にしたいものはいっぱいある。贅沢な話かもしれないけれど、もう一度あの頃の花畑を甦らせてみたいものだ。


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