川竹道夫エッセイ集
徳島新聞「視点」

100円ショップ

 家の近くに大型の100円ショップが出来たというので、探検に出かけることにした。
入り口付近に並んでいるのは、旅先でよく見かける民芸玩具の類、木や竹で出来た手作り風の玩具が並んでいる。何故これが100円で売られているのか、狐につままれたようだ。
子供の頃に新しいものを見ると「これなんぼ?」と質問して、「子供がお金のことを口にするんじゃない」と良く叱られたが、大人の世界でもモノの評価に価格は最も手っ取り早い価値基準となる。値段を聞くと何となく納得してしまうのだ。だが、100円ショップの世界はこの常識をまったく覆す世界である。なにしろこの店の中ではすべての品物が等価なのである。ふだんの生活で高価なモノ、安いモノと位置づけていた商品がすべて100円で並んでいるのは、カルチャーショックどころか、価値革命だ。「これなんぼ?」を連発した、くだんの少年がここに来たら絶句することだろう。かつては高価なモノとされていた、時計、めがね、ラジオ、電卓も、カップラーメンやティッシュペーパーと同様に100円で手にはいる。そういえば、以前某テレビで100円ショップの仕入れの実態に迫る番組があったのを思い出した。流通の世界が生み出した奥深いマジックなのだろうが、製造に携わっている人の苦労を思うと少し胸が痛んだ。
 100円だから何でも買ってしまおうという気にはなれない。やはり悩みながら手に取り、眺めて棚に戻して、またかごに入れる。こんな動作を繰り返しながら、店内を一周するのに1時間があっというまに過ぎてしまった。沢山買ったつもりでも15点、レジで一点二点と品数を数えるだけで値段が決まり、支払った金額はしめて1575円だった。それでもたいそうな買い物をした気分になり、私にとっては十分に楽しいショッピングであった。
 ついでながら、「100円ショップで大実験!」(監修:大山光晴、学研)を紹介しておこう。昔は考えられなかったような高度な科学実験が、100円ショップの商品を使う事によって、家庭で実現出来る事を面白く解説している。100円グッズで実験に明け暮れる子供達を想像すると、なにやら明るい日本の将来が見えてきそうな気さえする。
100円ショップの探検は、楽しいショッピングに価値の再発見、さらに100円グッズのわくわくパワーが加わり、どうやら病みつきになりそうである。


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