川竹道夫エッセイ集
徳島新聞「視点」

大学再編成

 3月27日付本紙に「国立大学の独立行政法人化」と題された記事が掲載され、徳島大学における将来的な独立行政法人化に備えた対策の現状を伝えていた。「県内の文化に打撃?」と疑問を投げかけ、新年度からの新設コースに言及したこの文章を、大変興味深く読ませていただいた。
 徳島大学では新年度よりマルチメディアコースが新設され、その結果美術、音楽分野の実技への割り当て時間が減るという。IT革命のかけ声の元に、美術や音楽のデジタル化にますます拍車がかかる時代のニーズへの対応と受け止められるが、果たしてこの選択が大学の存在価値を高めることになるのかどうかには大きな疑問が残る。社会のニーズに応え時代の流れに迎合してゆくことによって失われるものが、長年かかって築いてきた伝統ある教育の場や、高き理想と日々の訓練によって培われたものである事を考えると、痛手はかなり大きなものであると言わざるを得ない。
 メディアを征するものが、世の中を征する風潮さえ感じられるこの頃、マルチメディアコースの導入は一見当を得たものであるかのように見える。しかし、大学や教育の場における美術、音楽は、それらとは一線を画す高い次元のものでなければならないはずだ。
虚像を追いかけるメディアや産業界に追随し、捨て去ろうとしているものが、取り返す事の難しいものである事に気づくのにそう多くの時間を必要とはしないだろう。
 最近では産学連携と言う言葉がごく当たり前に使われるようになった。だが、産学連携を大学の目的とするような本末転倒的発想は、大学本来の役割を見失う事にもなりかねない。21世紀の今こそ本来の大学の在り方を問い直すことも必要なのではあるまいか?
 行政改革を目的とした国立大学の独立行政法人化には、大学側からの反発もかなり強いものがあると聴いているが、現時点での徳島大学総合科学部のコース再編成には、渦中にいる娘を持つ一父親としてかなりの疑問を感じている。どこにもぶつけることの出来ないいらだちから、思わぬ苦言を吐いてしまった事をお許し願いたい。


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