川竹道夫エッセイ集
徳島新聞「視点」

ドメイン名裁判

 ドメイン名とは急速に一般化されてきたインターネット上の識別名のことである。この識別名は国内では、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)が管理していて必要な手続きをとれば、先願制で登録される仕組みになっている。インターネットが普及し、ネット上の商取引が一般化するに及び、このドメイン名が商業上大きな意味を持つようになり、ドメイン名を巡るトラブルも出てきた。
 つい先日、富山地裁の出した判決によると、ドメイン名に登録商標などと同様な商標権の適用を認めるというものであり、既得者である被告企業に、商標権の侵害があったことを認める判決となっている。この事件を取り上げた某民放テレビのニュース解説者は、他社の商標を勝手に使うのは許せない、と語気をあらげていたが、果たしてそんなに簡単に扱っていい問題だろうか?
 この裁判では、大手企業の商標に似通ったドメイン名を取得し使用していた小企業を相手取り、大手企業が商標権の侵害を主張していた。調べてみれば、訴えられた企業がこのドメイン名を取得したのは二年前だという。二年前にドメイン名の重要性に気づかなかった大手企業の失態は笑うに笑えないが、怠慢のそしりは免れないだろう。気づいた時には先にとられていた。似ているから商標権の侵害だ、だから告訴したというわけだ。インターネット先進国の米国では、ドメイン名取得の手続きが簡単な事もわざわいし、既にこうした裁判が多発し、ドメイン名に商標権を認めるという、有名企業に有利な判例が出ている。富山地裁の判決もそれにならった判決と思われるが、ITのヘゲモニーを握る人達への理解にかけた判決だと言わざるを得ない。被告企業が、即刻控訴手続きを取ったことは言うまでもないが、次の裁判でどのような判決がなされるかは全く予想がつかない。
 ITを受け入れると言うことは、既存の尺度や価値観が通用しない世界を受け入れるに等しい事であり、既存の法をもってこれを裁くこと自体不可能な事に違いない。ドメイン名とうものが価値を持つようになり、それに群がる人たちが増えればこうしたトラブルはますます増え続ける事だろう。旧来の価値観による安易な判断は、IT推進を標榜する政府とは裏腹な結果を招くことになりはしないのだろうか。


戻る