川竹道夫エッセイ集
徳島新聞「視点」

創世ホール

 北島町立図書館・創世ホールは、1994年の創立以来、ユニークな企画と使いやすさから、徳島市内からは少しへんぴなところにありながら、土日の貸ホール予約は音楽会などの催しで満杯の状態が続いている。ホール自体の作りは特別に響きがいいわけでもないし、使い勝手の良くない部分も多々あるのだが、永年の実績から「大変良いホール」というのが定説となっている。利用者とスタッフの人たち、とりわけ小山所長と小西主査の名コンビが築いてきた信頼関係に、こうした評価が与えられたと言えるだろう。
 小西主査は音楽のみならず、印刷文化やSF文学その他に造詣が深く、独自の企画は、全国的に注目を集めている。3月4日は「漫画風雲録・トキワ荘物語」と題した長谷邦夫氏の講演会があるが、これなどは全国漫画ファンの羨望の的となる企画に違いない。また3月14日午後2時から同ホール、ハイビジョン・シアターで開催される「コンサート企画講習会」では、小西主査の講演会も予定されている。一方、小山所長は音響技術にかけては専門家顔負けの知識を有し、ホール全体の音響設備を自ら設計、製作するほどの腕前である。より使いやすいホールを目指してきたこの姿勢は、とうてい誰かがマネして出来るものではない。ホール利用者には労を惜しまず、機材の使用法はもちろんのこと、あれこれ懇切丁寧に教えてくれる。ありがちな、箱もの行政とは一線を画すホール運営の在り方は共感を呼び、いつのまにか創世ホールは「大変良いホール」になってしまったのだ。
 ところが、つい最近のこと小山所長が今年度をもって退職されるという知らせが届いた。このホールをいつも利用して所長の手を煩わせている音楽仲間たちからは、今後の利用について途方に暮れている旨のコメントが伝えられているが、私とて同感である。照明や音響などに専門の職員を置く余裕のない同様のホールでは、設備機器の使用もままならない状態にあると聴くし、かといって使用する側で機器の操作も自分で管理するとなると多大の労を強いられることになる。今にして思えば、小山所長は創世ホールの運営に欠くべからざる存在であったのである。利用者にとっては大変残念な事であるが、永年お世話いただいた小山所長には、この場を借りて感謝の意を表したい。


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