グレゴリオ聖歌

 今年の音楽界の異変として、グレゴリオ聖歌のCDの空前の売れ行きが、各紙で取り沙汰された。グレゴリオ聖歌は千四百年前にローマカトリック教会の典礼用音楽として生まれたもので、西洋音楽の原点ともいうべきものである。中世の禁欲的にして、単調な音楽がこのような騒々しい世の中にかくも受け入れられようとは、流行とはわからないものである。原因不明の流行に、諸説入り交じって、グレゴリオ聖歌が売れるならと、仏教音楽の声明(しょうみょう)も発売されて、宗教音楽がちょっとした注目を集めている。
 単旋律の斉唱で歌われるグレゴリオ聖歌は、神への祈りと人間の本来の生への力強さにあふれている。あたりまえといえばあたりまえなのだが、簡素で清澄な響きは誰の耳にも心地よく聞こえたのだろう。
 巷にあふれる多くの音楽は、刺激的、扇情的であり、時には暴力的でもある。私はこうした音楽と音楽の聴き方を総合して「慢性刺激的音楽」と呼んでいるが、こんな音楽を大音量で聴き続けていると、人間の感性はきっと鈍化されて行く事だろう。
 逆に、自然の中に静かに耳を澄まして聴く鳥の鳴き声、谷川のせせらぎは、心をなごませ感性を育んでくれる。グレゴリオ聖歌のメリスマは自然の響きに近い、魂のうねりのようなものを感じさせ、聴くものにやすらぎを与えてくれる。

 今宵はクリスマスイヴ。イエス様の生誕を記念して、あちこちのキリスト教会では聖夜礼拝がおごそかに行われる。カトリック教会では多くの人たちが、千四百年前のグレゴリオ聖歌を聴きながら神を賛美することだろう。

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