初搾りの楽しみ

 昨年10月10日のこと、私は仲間たちに誘われて佐那河内の棚田に向かった。その日は「棚田で地酒をつくる会」(武内悌一会長)の稲刈りの日だった。数年前から仲間入りをさせてもらっているものの、日程があわず稲刈りに参加するのは初めてだった。

 私が着いた頃にはすで先鋒隊がかなりの部分を刈り上げていた。数日前の台風にもかかわらず、稲が倒れていないのは、手際よく稲を束ねておいたくれたおかげだとわかった。考えてみれば、本格的な稲刈りは生まれて初めての体験。管理をしてくださった方々に感謝しつつ、うなだれた稲の束に鎌を入れて行く。機械の入れる棚田はコンバインという機械でスイスイと刈り取りと脱穀が出来て行く。眺めながら、なんと酒造りとは奥深いモノだ、などと妙に感動した。機械の入れないところは鎌を使って手で刈って行く。おおむね刈り終えたあたりで、一息ビールを飲み干すと、後は野となれ山となれ。肥満気味のお腹に、運動不足もあって、第一線で活躍することこそ出来なかったが、息切れしながらも足を引っ張ることなく仕事を終える事が出来た。特別あつらえのお弁当をおいしく頂いて、藁にごろりと横たわると、真っ青な秋空が目にしみこんでくる。昨年作ったお酒などを酌み交わしながら、お酒談義に花が咲く。夕日を眺めながら充実した稲刈りの一日は終わった。

 年は明けて、お屠蘇気分もさめやらぬこの頃、そろそろ初搾りの日程が気になる。稲刈りでは息切れした私も、初搾りは名誉挽回のチャンスとばかり手ぐすねを引いて待っている。今年は20世紀最後の新酒が味わえるという寸法だ。

 今年の冬は暖かい。池田に雪が降ったという情報もきいてはいるが、冬の寒さはお酒の発酵に重要な鍵を握っている。私たちの育てた山田錦は、池田町の酒蔵でおいしい水と糀で仕込まれ、発酵し、お酒に熟成する。池田町の寒い冬は酒造りには最適だと杜氏さんから聞いた話を思い出す。果たしてお酒の出来具合はどうなんだろう?

 三々五々帰ったあの稲刈りの時の仲間たちと、香りたっぷりの酒蔵で、新酒の味わいを分かちあえるのももうすぐだ。きっと稲刈りの時のわらの香り、土の匂い、青い空を思い出すことだろう。地酒作りを楽しもうという、大人たちの贅沢な遊び。初搾りを前に、思いはめぐり期待に胸膨らむこの頃である。



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