阿波の松島

 今年の夏は雨が多く、クーラーのお世話になる事もあまりない。例年真夏にピークを向かえる電力消費量も、今年はあまり伸びなかったことだろう。将来における電力需要の伸びに備えて、という理由で、「阿波の松島」とも呼ばれる阿南市橘湾に巨大な石炭火力発電所が建設されようとしている。

 先日(八月十日)地元住民、反対団体と電力会社、県の話合いの会に参加したが、会場は地元住民他で埋めつくされ場外まで人があふれていた。電力、県側の動員数も四十数名を数え、電力側のまとめた「環境影響調査書」の内容について、数々の疑問が提出された。一日一千万トンも排出される温廃水による周辺海域の汚染、煙突から排出される重金属類の問題。毎日二千トンも排出される石炭灰も有効利用されるとはいうものの、具体的な解決策に関してはさっぱり要領を得ない。十二月の電源開発調整審議会までに、具体的処分法を提示しなくてはならないというのに、この時点でまだはっきりしていないという。どういう事情だろう、これでは見切り発車といわれても仕方がない。ひたすら計画をゴリ押ししようとしているかのようだ。

 こうした環境や人体に与える影響については、希望的な数値をかかげるより、最悪の場合を想定して、このような事態になる可能性があるけれども、それでも火電が必要かどうかを問いかけるくらいの姿勢が必要だと思う。地元住民に何度でも説明し、話合いのチャンスを与えるべきではないだろうか? そしてのらりくらりとした要領を得ない回答ではなく、もうすこし誠意のある回答をすべきだろう。

 「橘湾の魚を食べ続けたい。」と言う地元女性の訴えは、今も心に残っている。われわれが子孫に残したいもの、残さなければならないものは、ありあまる電気エネルギーなどではない。その代償に、阿波の松島の美しい海や空を失うとしたら、そんなものをだれが望むというのだろう?

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