PA装置

 先日、あるパーティーに参加した。野外に架設したステージではアマチュアのバンドが演奏していたが、その音量のすさまじさには閉口した。シンバルの音が炸裂したときなどは耳が張り裂けそうだ。隣に座っている人と話をすることもかなり困難な状態である。低音と高音をあからさまに誇張した、いわゆるドンシャリ・サウンド、これがまた耳を刺激する。音楽本来の美しさや、楽しさなどとはおよそ縁のない、暴力的騒音と化した音が容赦なく耳を直撃する。たまりかねた私は音響技術者に音量をすこし下げて欲しいと願い出た。いかにも不機嫌そうに音量を下げたものの、私が席に戻るや元の音量に戻してしまった。何度かこんな事をくり返しながらパーティーは終わったが、私の痛めつけられた耳と心はいまも穏やかではない。

 コンサートの音響装置のことを業界用語ではPA(ピー・エー)と呼ぶ。PA(Public Adreass )、本来の意味からすると、公に知らしめるための拡声装置と言うことになる。聞こえにくい音を増幅して聞き易くしたり、複数の楽器などがセッションする場合の音量のバランスを取るのがPAの目的である。会場の大きさや響き具合に合わせて、音質を補正したり、残響を付加して臨場感溢れる音の場を作り出し、聴衆も心地よい音響に耳を傾ける。こんな場を提供するのがPA技術者の役目である。自分の好みで音楽を歪曲し、大音量で鳴らして悦にいるなど、本末転倒も甚だしい。

 騒音に近い音量で聞かされるのを好む人はそう多くはないはずだ。事実、私の身近にいた人たちはシンバルの音が炸裂する度に、耳を押さえていた。こんな音を聞き続けていたら聴覚障害が起きることは間違いないだろう。音楽の心や体に与える影響が、多大なものであることは疑う余地のないものであるが、不自然な音響や騒音まがいの音楽を聞き続けることによる聴覚や精神の障害、青少年の犯罪増加や学級崩壊など、身近な社会問題の奥深くにはこういった音楽のもつ影響力も忘れてはならない。

 不手際なPA装置のおかげで、はからずも不機嫌をまき散らす結果となってしまったが、もはや楽器の一部とさえなってしまったPA装置、音楽を共有するための道具として、やさしく使いたいものである。



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