川竹道夫エッセイ集
徳島新聞「阿波圏」

おたまじゃくし

 音楽を書き表すのに用いられる音符、「オタマジャクシ」と親しみやすい愛称まで頂戴しているが、実際に親しんでいる人は少ない。このオタマジャクシ、正確には五線記譜法と呼ばれ、17世紀以後にヨーロッパで完成されたもので、一般的に最も親しまれている記譜法だ。
 小中学校では結構親しんでいるはずなのに、覚えている人は多くない。と云うより、楽譜恐怖症、あるいは拒否症になっているようでさえある。音楽の好きな人でも、楽譜を見せると決まって「楽譜は苦手で...」と敬遠する。察するところ、楽しくない思い出と楽譜が結びついて苦手意識が働いているのだろう。「ソミ、ソミ、ドレミ」と階名唱法に悩まされた経験は私にもある。♯や♭が付こうものなら、頭の中はパンク寸前。
 日常的に音楽を聴くには、楽譜を意識することはあまりない。が、ひとたび音楽をたしなもうとした時、さけて通れないのが楽譜。特定の楽器向けの奏法を表した譜もあるが、一般的には五線譜が使用される。カラオケでも何でも、楽譜があるとないでは大いに違う。「習うより慣れろ」式に耳から覚えるのもいいけれど、これも結構むずかしい。
 文字を覚える事に比べれば、オタマジャクシの文法はずっと簡単で直観的だ。何か好きな曲を楽譜を追いながら聴いてみると良い。何度か繰り返すうちに、何となく音の流れがわかってくる、こうなったらオタマジャクシは恐くない。少しばかりの規則を覚えて、じっと見つめるていると、音楽が聴こえるような気がしてくる。楽譜の意味が分かってくるようになると、音楽の世界は大きく広がってゆく。
音楽の好きなあなた、楽譜恐怖症とはさよならして、少しオタマジャクシと仲良くしてみませんか?


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